Fairiesをアイドルとして語るということについては、疑問を持たれる方もいるかも知れません。少なくとも、売り出し方としては、メンバーと同世代の女子を“仮想ファン”としているように感じられ、トラディショナルなアイドルとは一線を画すイメージ戦略のようです。実際、イヴェントなどでは女性のほうが目立ち、また男性もやはり同世代がほとんどで、コンサバティヴなアイドルファンは“お呼びでない”“招かれざる客”な印象を受けます。一方で、握手会イヴェントを多数行ったり、イヴェントが撮影可だったりと、敷居の低くくする取り組みも見られ、一概に“ヲタ排除”とも言い切れない部分があります。
そして、Fairiesの歌う詞は、バックトラックやヴィジュアルのイメージとはまた違った、実に“アイドルらしい”一面が感じられます。
デビュー曲は「More Kiss」という、コンサバティヴなアイドルファンにとってはやや刺激の強いタイトルですが、その内容は、ファーストキスを夢見る少女の気持ちと解釈できなくも無いです。
“一度だなんて言わないで このまま何度だって重ねて more kiss”
と言いながら
“毎日じゃないけど 会えるこんな日には 選んだ服も 何だかいつもより嬉しそう”
“ほんの少しでもいい 近づくようにdistance 空に向かって 祈りを込めて期待した雨
傘の中でだったら 言い訳考えずに そっと触れても 自然に見えるよ”
といういじらしい一面も見せます。
「More Kiss」のc/w「Song for you」は若さならではの情熱的な衝動が歌われています。
この歌詞は、さながら男性と女性のツインヴォーカルを想定したかのようなフレーズになってるのがドラマティックです。
“たまには素っ気ないような 態度でいたいのに 突然‘会おう’なんて言われたなら きっとすぐ飛び出していくよ”
という少年の気持ちに対し、
“独りでいる時の気持ち言えないよ ホントは不安だらけなんて あきれるほどあなたの事 全部知りたいの”
と少女の気持ちが呼応します。
そして、
“こんな日々が続く幸せを いつか二人で振り返りたいね”
と、男女と、若者が描く将来と、大人が振り返る青春を重ねて歌ってます。こうして、世代や性差を重ねたフレーズは、何年経っても色褪せないのでは感じられます。
あと、“時計の針の音が 聞こえなくなるほど”の部分でフリと歌詞がリンクしてるあたりは実にアイドル的だと思います。オレモーコールも楽しそうですね。
若さならではの情熱的衝動の描写としては、ニューシングル「Beat Generation」でさらに加速します。
“近づきたくて 繋がりたくて ただ会いたくて
You can fly to the distance
このままふたり 果てまで行こうよ 超高速でオンビート”
これはサビの歌詞ですが、二番のサビではやや字余り気味なのが、生き急ぐ感じがしてビートなジェネレーションだと感じます。
“ワガママだって 自分勝手だって 独り占めしたくて
You can fly to the distance
このままふたり 永遠をみようよ 超高速でヒートアップ”
二番と言えば“月に隠れてキスしよう”というフレーズがとても印象的です。月を女性、特に母親になぞらえる表現(REBECCAの「MOON」など)もありますから「(母)親に隠れて〜」とも受け取れ、少年少女心がくすぐられます。また月の裏側=地球からは見えない=二人だけの場所、の隠喩とも思えまし、また字面通りなら、非常にファンタジックなイメージにも感じられます。私などはTM NETWORKの「KISS YOU」を連想しました。
また、“はしゃぐビートは止められない”というフレーズは、とてもローティーン感があって、バックトラックの“オトナ感”に対し良いコントラストになってて耳に残ります。
ここまで述べてきたことは、あくまで私の感じ方です。歌詞や楽曲の受け止め方は人の数だけあっていいし、作家や演者の意図と違っていたとしても、それは受け取る側の自由なはずです。最近は、安易に送り手がイメージを固定したような情報を出したり、また聴き手もそうした“種明かし”を安易に求める風潮も見られますが、多面性のある楽曲の方が広く人々に受け入れられるでしょうし、そうした歌詞こそアイドルにふさわしいと感じます。また、他の人の感想を聴いて、イマジネーションを刺激し合うのも、私にとっては楽しみの一つです。
何がアイドルで何がアイドルでないかというのは、かつての“アーティスト論争”“アーティスト病”にも通じるところがある、結論の出ない話です。Fairiesに対しても、そうした色分け無く、様々な受け取り方があったほうが楽しみが広がるのではと考えています。
More Kiss / Song for You [Single, Maxi]
Fairies