この正月も、たくさんのバラエティ番組に、たくさんのアイドルが出たようだ。だが、果たして視聴者は来年の正月まで彼女たちのことを覚えているだろうか。
アイドルを語る時に、ある意味で最も重要視されてるのが、「バラエティ」への対応能力だ。主にテレビのバラエティ番組において、どれだけ印象に残るか、笑いを取れるか、場を盛り上げたりスムーズに進行したり出来るか、の能力を指している。アイドルのMCでもトークスキルは問われるが、「バラエティ」と言った場合は、テレビに出てるお笑い芸人や司会者とともに、番組を盛り上げられるかという点に重きを置いている。
テレビに出てお笑い芸人に「いじられる」ことは、アイドルにとって「おいしい」ことなんだ、ということらしい。
なるほど、確かにテレビのバラエティ番組においてはそうなのかもしれない。お笑い芸人に気に入られれば引き続き起用されるかもしれない。レギュラーだって持てるかもしれない。最近ではマイラブリー嗣永桃子がそれで注目を集めたし、過去にはバラドルと呼ばれる人たちもいた。バラドルを代表する一人の森口博子は、それで“本業”のアルバムリリースやコンサートまでこぎつけた。バラエティ対応能力を磨けば、他の仕事にもプラスに働くこともある。
とはいえ、アイドルと一口に言っても幅広い。歌手、女優、(CM)モデル、最近では声優も重要な仕事になっている。そして、一人で全てに対応することもないだろう。自分の得意なジャンルで才能を伸ばせばいい。
だが、こと「バラエティ」への対応能力については、なぜか全てのアイドルにおいて必要性を強調される。「バラエティ」で「結果」を出せば仕事がたくさん入ってくる、注目が集まる、そしたら好きな仕事だってできる、だから「バラエティ」で体張ってこい、スタッフや芸人に気に入られてこい、と。
「バラエティ」は超重要!
「バラエティ」で目立てば全てうまく行く!
「バラエティ」こそトップオブ芸能界!
どこの洗脳研修かって感じだ。それが、不幸な事故を招くこともあるのに。
テレ東収録で負傷事故…アイドルユニット「ぴゅあふる」の2人:芸能特集:スポーツ報知
テレビ東京は13日、同局の深夜バラエティー番組「月刊Melodix!」(26日・深夜3時15分)の収録中に、女性5人組アイドル9 件ユニット「ぴゅあふる」の綾川小麦(19)と藤崎麻美(21)が負傷9 件したことを発表した。綾川は左座骨と鼻骨の骨折で全治1か月、藤崎は左足首捻挫で1週間の安静が必要という。同局広報によると、12日午後5時45分頃、2人は「ぐるぐるチョコバット対決」で衝突し、スタジオ内の溝に落ちたという。同局では、5月14日にお笑いコンビ「ライセンス」の藤原一裕(33)が番組収録中に負傷9 件し、左膝前十字じん帯損傷で全治6か月と診断されている。
OOPS! ウープス - モー娘。新メンバーの紺野あさ美が大ケガ
「うたばん」の収録を行っていた16日午後8時ごろ、
コーナー企画「大玉ころがし」を行っていたときに、
紺野が巨大ボールを転がしている最中にスタジオ内の深さ90センチの溝に転落。
右足ひざの上を溝の角に強打し、約長さ6センチの切り傷を負った。
これらの事故は、彼女たちが悪いのだろうか。彼女たちの不注意だったのだろうか。
もちろん、私は現場にいたわけではないので、その場で行われた正確なことは知る由もない。だが、日々オンエアされるバラエティ番組において、“あわや”という場面を見たのは、一度や二度ではない。
労働災害においては、1つの重大な事故には、遠因となる数多くの軽微な事故や異常があるという(ハインリッヒの法則 - Wikipedia)。
これらの事故は氷山の一角なのではないか。バラエティ番組制作者たちは、アイドルたちを「テレビ出演」で釣って、危険にさらしているのではないかと心配せずにはいられない。もっと言えば、アイドルなんか代わりはいくらでもいるとばかりに、乱暴に扱っているのでないか。本人も事務所側も“干される”のが怖くて、無理を強いられているのではないか。
実際、過去には死亡事故を起こしているバラエティ番組もある。
ウッチャンナンチャンのやるならやらねば! - Wikipedia
だが、この事故を教訓とするどころか、忘れたかのように、日々アイドルたちが「体を張る」企画が行われている。
先ほど名前を上げた嗣永桃子も、番組中にバラエティ芸人に飛び蹴りをくらったりしてた。オンエアされている時点で無事だったと頭ではわかっていてもハラハラしたし、そもそも自分の好きなアイドルが蹴られているの見て気分がいいわけがない。あれを「娯楽」としてアハハと笑うというのは……はっきり言えば、悪趣味だと思う。
ところが、「バラエティ」論者に言われると、これは「おいしい」のだという。テレビにもたくさん出れて、次の仕事にもつながって、話題にもなったと。
だが、もし桃子が怪我でもしてたら同じことが言えるのか。テレビのためだからコンサートを欠席してもやむを得ないとか言ってられるのか。
こうした危険性を無視して、嗣永桃子や森口博子はそれで成功したからあとに続け、テレビ屋に気に入られるためにはどんな危険なことでもやれ、という風潮には、はっきりノーと言いたい。
さらに言えば、「視聴者を笑わせる」ことと「視聴者に笑われる」ことは大違いだ。アイドル側としては前者を目指しているのだろうが、番組制作者の意図もあり結果的には後者にさせられてしまう。バラエティ番組においては、アイドルはバカにして見下して楽しむように作られている風に見える。
そんな番組で一時的に「おいしい」思いができても、一瞬で捨てられてしまうのは火を見るより明らかだ。
確かに、個々人の適性はそれぞれだから、バラエティの適性があるアイドルもいるとは思う。だが全員ではなだろう。歌手や女優に適正があるように、バラエティだって、向いてる人は向いてるだろうが、向いてない人は向いてないはずだ。
それを「テレビでおいしい思いができるから」「テレビの仕事が欲しいから」とばかりに、全てのアイドルに「バラエティ適性」を求め、危険な目にあわせてもいいものだろうか。大けがと隣合わせで「体を張る」ことが、そんなにアイドルにとって必要なことだろうか。
不幸な事故を繰り返さないために、関係者各位は今一度考えなおして欲しい。
そして、視聴者の皆さんも。
日頃、格闘の訓練もしてない女の子に相撲を取らせて粉まみれにしたり、危険な「ゲーム」に挑戦したり、アイドルが殴られたり蹴られたりするのを見るのが、そんなに楽しいか?