私が新潟でコンビニの店長をやっていた'90年代、業界全体で、客単価の減少に頭を悩ませていた時期があった。
当時のコンビニが想定していた客層はズバリ独身男性。それも学生や働き盛りが主で、少子高齢化にともない、今後客数が減少することは明らかだった。スーパーも深夜営業を始めるなど競合も増え、売上高前年割れもめずらしくない状況になりつつあった。
そこで、チェーン本部が打ち出したのが、客単価の向上だった。
売上=客単価×客数。小売業は店に根っこが生えてるため、自らお客さんを「狩り」に行くことができない。だから、客数が減ったら客単価を上げよう、という単純な発送だった。品質さえ良ければ高くても売れると豪語し、既存の価格帯を超える「高級路線」の弁当などが売り出された。
結果としては、販売はふるわなかった。どんなに本部がプッシュしても、どんなに商品を工夫しても、POSデータは、300円代、400円代の弁当のほうが売れるという結果を示していた。
ほどなく、この「高級路線」は撤回され、あらためて価格帯と「値ごろ感」を再考するマーチャンダイジングが行われるようになった。現在のコンビニラインナップ基礎は、この頃の反省から生まれていると思われる。
また、それまで軽視されがちだった、子供連れの主婦(夫)、高齢者、学校や町内会の行事など、新たな客層の取り込みを行うようになった。“店に根っこが生えてる”を逆手に取り、一度取り込んだらヨソがなかなか入り込めない売上の獲得を目指した。中元歳暮クリスマスなどの予約獲得とともに、店舗面積に依存しないこれらの売上は、とても重視されている。
小売業の勝負はもちろん売上で決まる。だが、売上が落ちている時に、客数ではなく客単価のアップで乗り切ろうというのは、スジが悪すぎると言わざるを得ない。いわゆる高プレミアム路線というのは、自らの付加価値を上げて人気を得ようという「攻め」の作戦であり、売上が落ちたからそれを補うという「守り」の値上げは、とかく成功しない。客の信頼を失い、従業員の士気を落とすだけだ。
ブランド力が強いとされるアップル(コンピュータ)でも、その原動力の一つは価格であることは忘れられがちだ。初代iMac、eMac、iBook、MacBook Air、など、「性能の割に安い」からはじまって「普通に安い」として競争力を得ている。だからこそ、「ファン」を獲得し続けることができるのだ。
もちろん、値段を下げればいいというものではない。かつてのマクドナルドや、今の牛丼チェーンのように、むやみな安売り競争は自らの価値を下げるだけだ。セールという「ドーピング」を何度も行えば、客の方も麻痺してしまう。
値段を上げるのも下げるのも重要な作戦のうちのひとつであり、目先の売上に惑わされて、本来の目的である「客数の向上」を忘れてはいけないのだ。ざっくり言えば、今いるお客さんが減ってきて客単価と売上が落ちてきたなら、それ以外のお客さん、今まで自分たちのところへ来てなかったお客さんのことを考えてみてはどうだろうか。